山梨県とタイリクウズグモ

研究

タイリクウズグモは白色でもふもふで,その見た目はシマエナガのようである.

『日本のクモ』(新海)で本種は「採集記録は極めて少ない」とされ,稀少なようである.

また,日本で山梨・長野・和歌山でしか観察されず,その不思議な分布が大変興味深い.

本記事では,タイリクウズグモの分布に関するこれまでの研究を整理したい.

まず,『Spiders of Europe』によると,タイリクウズグモはヨーロッパ全域・トルコ・イラク・イラン・カザフスタン・中国・韓国・日本に分布をしているという.

この分布域の広さから察するに,タイリクウズグモはバルーニング能力の高いクモであると窺える.

実際に,『飛行蜘蛛』(錦)ではウズグモのバルーニングが報告されている.

国によってはタイリクウズグモはレッドリストに記載されている.

チェコ,ドイツでは絶滅危惧種として扱われているとのことだ.

絶滅が危惧される理由として,本種がツツジの枝間を好んで網を張る生態をしているにも関わらず,近年ではツツジが減少していることが挙げられている.

ポーランドにおいては2017年に初発見されており,このことが論文として報告されている.

中国では河南、河北、吉林、黑龙江、浙江、安徽、江西、湖南、四川、甘肃、青海など広範囲に分布することが報告されており,このことからもユーラシア大陸の西から東まで分布することがわかる.

日本におけるタイリクウズグモの初発見は1967年とされ,産地は本州中部高地とあった.

さて,このようにタイリクウズグモは高い分散能力があり,ある程度の環境への耐性もありそうだ.

その分散能力を考えると,日本に山梨・長野・和歌山にしか分布しないことが不思議である.

このような離散的な分布をすることを考えると,やはり人為的で非意図的な移入が原因だろうか.

ちなみに,同じウズグモ属のケアシウズグモが2017年に日本で初発見された.

ケアシウズグモは腹部の背中に1対のこぶと3対の毛束があるため,タイリクウズグモと見分けることは容易であるとのことだ.

こちらも和歌山県と高知県でしか棲息が確認されておらず,移入が考えられそうだ.