クモと生殖戦略(オス編⑤)

研究

この記事は「クモと生殖戦略(オス編④)」の続きである.

オスは交接が終わってからも安心はできない.

自分が交接を済ませたメスを狙って別のオスがやってくるのだ.

ある種では,既に交接を済ませた別のオスの精子を生殖孔から掻き出す行動が観られる.

また,種によっては2番目に交接をしたオスの方が1番目よりも受精率が高くなる者もいる.

このように,交接を既に済ませたオスは次にやってくるオスに対して対策をする必要がある.

この対策について,本記事では述べる.

①交接後にオスがボディーガードをする.

ジョロウグモなどでは,交接後の数日間,メスをボディーガードするとのことである.

しかし多くの種では,オスは交接を終えてすぐに寿命で亡くなることが多く,このボディーガードをすることができない.

よって,他の作戦を採る種が多い.

②メスの生殖孔を塞いでしまう.

交接をしたオスがメスの生殖孔にプラグを付けて,生殖孔を塞いでしまう行動が観察されている.

交接プラグには2種類あって,ひとつはオスの触肢の腺から分泌される液状の物質で,メスの外雌器をこの液状物質で塞ぐ.

この物質は分泌後に固まり,メスが死ぬまで付着している.

このようなプラグは,ヒメグモ科・ササグモ科・タナグモ科など完性域類で観察される.

もうひとつのタイプは,オスの触肢の構造の一部が外れて,メスの外雌器の交接管の中に残るもので,コガネグモ科・ヒメグモ科などで観察される.

メスの生殖孔は2つあるので,オスが両方の触肢を使用して生殖孔を塞ぐことで,オス自身も生殖能力を失うが自分の子を残せる確率が高まる.

なお,体サイズの小さいオスのつくったプラグは不完全な場合が多く,別のオスと交接をすることによりプラグが外れてしまうこともあるという.

やはり,大きい方が良いのだろう….

③メスの生殖器を破壊してしまう.

ギンメッキゴミグモではメスの生殖器を破壊する行動が報告されている.

コガネグモ科ではメスの生殖器の中央に垂体(外雌器の突起物)を付けているものが多い.

交尾の際に垂体は立ち上がり,先端をオスの交尾器の突起に引っかけて,オスの栓子を生殖口に誘導する働きをする.

そのため,メスの垂体がなくなれば,オスはそのメスと交接ができなくなるのだ.

そして,ギンメッキゴミグモのオスは交尾後にメスの垂体を切り落としてしまう.

錐体を破壊する仕組みについて,オスの触肢にはナイフのような構造が備わっており,この部分で垂体を根元から切り落とすとされている.