クモと生殖戦略(オス編③)

研究

この記事は「クモと生殖戦略(オス編②)」の続きである.

クモは孤独を好む性質が強く,配偶者であろうが子供であろうがお構いなく食ってしまう.

また,メスはオスよりも体格の大きいことが殆どであり,多くの場合オスはメスに力負けする.

そのため,メスに共食いされてしまうリスクを背負いながらオスは交接を仕掛ける.

本記事では,オスがメスによる共食いを避けるためにどのような戦略をとっているか述べる.

①プレゼント作戦

キシダグモは求愛する時に餌(糸で包んだハエなど)をプレゼントをする.

これは,メスの食欲の対象をオス自身からプレゼントに逸らさせる意義がある.

そして,オスはメスがプレゼントを食べている隙に交接を行う.

プレゼントが大きいほどに交接の時間が長くなり,オスが自身の子を残せる確率が上がるという.

コサラグモの1種ではオスの頭胸部の先がこぶになっており,メスはオスのこぶに噛みついた状態で交接する.

こぶには分泌腺があり,分泌液を出していることが分かってきた.

オスは自らの魅惑的な分泌液をメスにプレゼントして,その間に交接をしているのだ.

②催眠術作戦

クサグモのオスではメスに催眠術をかけて交接を行う.

オスがメスの網を訪れて,オスはなだめかすように触肢・前脚を動かす.

これによりメスは催眠術にかかったように眠りこけて,その隙にオスがメスを横にして交接する.

また,ヤミイロカニグモでは,メスを糸でぐるぐる巻きにしてから交接を行う.

本種でもメスと出会ったオスは,メスに催眠術をかける.

オスはメスが催眠にかかっている隙に,メスの体の周りをくるくると回りながら糸で縛り上げていく.但し,メスは体が大きくいつでも糸を切ることができるため,動きを封じることが目的というよりも一つの婚礼の儀式と考えられるかもしれない.

糸にメスの気持ちを落ち着かせるフェロモンが含まれる説もある.

③幼女狙い作戦

大人のメスに勝てないのであれば,力負けしない子供のメスを狙えば良いのではないか.

子供のメスは基本的に生殖能力を有していないが,あと一回の脱皮で大人になるという段階まで成熟した子供のメス(亜成体)は既に受精嚢を有している.

しかし,この時点では精子を受取る孔が開通しておらず,通常の方法ではまだ交接ができない.

そこで,オスは亜成体のメスの腹に牙を刺して穴を空け,受精嚢に精子を強引に起こり込む.

精子は亜成体が脱皮してもメスの体内で生き続け,メスが大人になった後に産卵に使われる.