この記事は「クモと生殖戦略(オス編①)」の続きである.
ハエトリグモなど視力の良いクモでは,オスがメスに対して求愛ダンスをする.
求愛ダンスにどのような意義があるのか,本記事では2つの意義を紹介する.
①意義1:互いに同種であることを確かめるため.
まず,オスの求愛ダンスには,メスに対して自身が同種であることを知らせる意味がある.
ハエトリグモなどでは近縁種間において見た目が非常に似通っているが,種ごとにダンスの方法が大きく異なっているのだ.
ダンスで同種か否かを見分ける必要がある理由としては,別種間だからと言って必ずしも生殖隔離が完全であるとは限らないからである.
例えば,コモリグモ類のある種では,形態学的な差異はほとんどないが,ダンスで発せられる音が明瞭に異なるために野外で両者は交雑しないとされている.
しかし,二酸化炭素でメスを麻酔し,強引に異種のオスと交配させた結果,同種内でも異種間でも同様に孵化し,その子も生殖能力を有していた.
よって,別種であるにも関わらず,交配後の生殖隔離は発達していなかったのだ.
②意義2:オスがメスに対して自身の強さを誇示するため.
オスの求愛ダンスには自身が強いオスであることを示す意義も大きい.
クモの脚の表面には神経の繋がる細い切れ込みがスリット上に幾つも開いている.
その為,脚が振れている糸や地面が動くと,その切れ込みが歪み,揺れを感知する.
ハエトリグモの一種のメスは地面の叩く回数が多いオスを選ぶ.
この求愛行動は,オスにとって労力がかかり,オスの寿命を縮める行為.
このような求愛を激しくできるのは,生きる上で余裕のあるオスなのでメスにモテる.
これは体の大きいオスがモテることと同値であり,実際大きいオスほど地面を激しく叩ける.
この求愛手段はブラフがきかないので,体の大きいオスが必然的にモテる.
また,ハエトリグモでは体の色や模様が鮮やかな種がモテるが,これも鳥などの天敵に見つかり易くなるために,身を削って行う求愛と言える.
信頼できるコミュニケーションのためには,送り手がコストを払わなければならない.
このように,身を削って行う求愛は信頼できるのだ.