山梨県とアブラハヤ

研究

アブラハヤは山梨県では最もよく観察される淡水魚である.

かくいう私が初めて採集した淡水魚もアブラハヤであり,研究の道に進むきっかけとなった魚だ.

アブラハヤの亜種には富士五湖に固有のヤマナカハヤがおり,既に絶滅したとされている.

しかし,富士五湖の成立起源は浅く,仮にヤマナカハヤという亜種が存在した場合,他にも棲息している場所があるのではないかと気になった.

本記事では,近年に実施されたヤマナカハヤに関する研究を紹介する.

①『ヤマナカハヤの形態学的特徴と棲息状況』,藤田ほか,2005.

これはヤマナカハヤに直接的なスポットを当てた最後の研究と言っても過言ではない.

この研究では,富士五湖周辺の水系でアブラハヤを採集し,ヤマナカハヤのタイプ標本と形態学的な比較を行っている.

アブラハヤは,相模川・酒匂川・狩野川・富士川の4水系で採集をしている.

タイプ標本としては,ヤマナカハヤ(ホロタイプ1個体,パラタイプ個体)とアブラハヤのタイプ標本(シンタイプ7個体)を使用している.

ヤマナカハヤとアブラハヤは亜種関係のために形態学的な差が殆ど観察されないが,ヤマナカハヤは尾柄高が低くなっており,この研究でも尾柄高を比較形質として用いている.

その結果,殆ど全ての個体がアブラハヤのタイプ標本と一致したが,相模川水系道志川,酒匂川水系音川の個体に関してはヤマナカハヤに近い値を示した.

その後は詳細な研究は実施されていないが,これらの水系にはヤマナカハヤの末裔が棲息している可能性があるのだろうか?

長野県諏訪湖にもスワモロコという既に絶滅した固有亜種が棲息していたが,近年の遺伝学的研究でその末裔が接続水系に生き残っている可能性が示唆されており,ヤマナカハヤにも同様の可能性はあるかもしれない.

②『日本産アブラハヤの遺伝的集団構造と移植の実態』伊東ほか,2023.

日本のアブラハヤの遺伝構造について調査した研究論文は幾つかあるが,山梨周辺の遺伝構造を調査している研究論文は見つからなかった.

この研究は日本生態学会で発表されたものであり,論文化はされていない.

しかし,この研究では山梨・静岡のアブラハヤの遺伝構造についても調査しているようであり,山梨・静岡(伊豆)のアブラハヤが固有の遺伝子集団であることを示唆していた.

富士五湖の山中湖は相模川水系に属するため,相模川水系との遺伝学的関係についても解明してほしいと思う.