山梨県とゲンジボタル

研究

ホタルは河川環境の状態を反映する指標生物とされている.

しかし,意外にも本州に棲息する水棲のホタルはゲンジボタルとヘイケボタルの2種だけである.

ヘイケボタルは大陸にも分布するが,ゲンジボタルは日本の固有種である.

更に近年の遺伝学的研究によりゲンジボタルは複数の地域集団に分かれることが明らかにされ,山梨県にも固有の集団が棲息することがわかっている.

本記事では,山梨県におけるゲンジボタルの遺伝学的研究について紹介する.

近年の遺伝学的研究から,日本に棲息するゲンジボタルの種内集団は,東北・関東地方に棲息する集団Ⅰ,中部~中国地方に棲息する集団Ⅱ,九州南部に棲息する集団Ⅲ,九州北部に棲息する集団Ⅳ,そして山梨県にのみ棲息する南アルプス集団に分けられることが判明した.

山梨県には集団Ⅱと南アルプス集団が混在するとされている.

しかし,集団Ⅱと南アルプス集団は互いに交配可能である可能性があるため,同所的に分布している地域では交雑が起こっていると考えられる.

また,民間団体や行政の誤った知識に基づく放流活動により,遺伝子汚染が発生することも懸念される.

遺伝子汚染が起こると其々が持つ遺伝的性質が混合するため,元々持っていた病気への抵抗力を失うなど負の影響をもたらす可能性がある.

加えて,ゲンジボタルは集団によって発光間隔が異なっており,関東山地を境として,4秒間隔で発光する東日本型,2秒間隔で発光する西日本型に分けられることが示されており,遺伝子汚染により発光間隔の地域固有性が失われると懸念される.

実際,発光間隔の異なる個体を移植したことにより,移植先に元々棲息していた在来の個体が絶滅してしまった可能性が示唆された研究も存在する.

今後,南アルプス集団の発光間隔についても調査されていくと思うが,遺伝子汚染によるリスクが考えられる以上,安易な放流は避けるべきである.