クモのオスはできるだけ多くの卵を自分の精子で受精させたい.
一方,クモのメスは産める卵の数に限りがあるからできるだけ交接の回数を少なくした上で優秀なオスの子を残したい.
オスとメスは繁殖に関して異なる利害関係にある.利害の不一致(性的対立)があるので,オスは強引にメスと交接する行動が,メスはそれを拒否する行動が備わっている.
ここでは,クモのオスの生殖戦略について述べる.
①処女狙いのオス
造網性のクモは幼体期はオス・メス共に網を張るが,メスは大人になっても網を張り続ける.
一方,オスは大人になると網を張らなくなり,餌も食べずにメス探しに全力を尽くすことになる.
ジョロウグモでは,秋になると亜成体(成体になる手前)のメスの網に成体オスが待ち構える.
これは,オスがメスの最終脱皮をして成体になることを待っているのである.
クモは最終脱皮を終えて成体になるまでは生殖器が発達せず,性行為ができない.
ジョロウグモではオスがメスよりも早期に最終脱皮を終えるため,メスの網に張り込みをして,メスが成体になるのを待ち伏せすることができる.
最終脱皮を終えて成体になったばかりのメスは「処女」であるため,オスは待ち伏せをしておくことによって確実に処女メスと性行為ができるのである.
特に完性域類では,最初に交接したオスの精子が受精に使われる割合が高くなっているため,処女のメスを狙うことはオスが子孫を残す上で重要である.
また,オスは本番の交接に入る前に移精を伴わない擬交接を行うことで,メスが処女か非処女かを見分けることができる.
なお,擬交接をした後に別のオスと喧嘩になった場合,処女を巡っての戦いなら本気で戦うが,非処女なら手を抜くらしい.
②メスを巡るオス同士の戦い
オスはメスの奪い取り合戦をする際に競合するオスが強いかどうかで喧嘩するか決める.
競合するオスの強さは,アピール合戦で決める.
例えばハエトリグモはオス同士が向かい合い,前脚や顎を大きく広げ大きさ比べする.
喧嘩の強さには体の大きさが関わるので,アピール合戦でお互いの強さがわかる.
また,体の色や模様でアピール合戦する種類もいる.
オスの栄養状態や健康状態が良いと色鮮やかになったり,模様が大きくなったりするからだ.
このように,無駄に怪我を負っても仕方がないため,クモのオスでは暴力的な戦いをする前にアピール合戦をして不要な戦いを避けているのである.