土の中で暮らすクモ,地面を走り回るクモなど,全てのクモが網を張るわけではない.
しかし,全てのクモは糸を生成する能力を有する.
同じ糸を生成する生物にカイコがいるが,カイコが1種類の糸しか生成できないのに対し,クモは用途に応じて7種類の糸を使い分けることができる.
本記事では,この糸を生成する器官と糸の種類について述べる.
糸は糸疣(しゆう)という腹部にある突起から出される.
1つの糸疣には多数の出糸管という糸が出る管が通っている.
各出糸管には特定の糸腺が繋がっており,糸腺で分泌された糸は出糸管の開口部から出る.
糸腺には大瓶状腺・小瓶状腺・集合腺・鞭状腺・梨状腺・管状腺・葡萄状腺の7種類がある.
其々の糸腺は形状が異なっており,それ応じた形状の糸が出される.
7種類の糸は形状だけでなく,用途も異なる.
【瓶状腺】
瓶状腺は円網の縦糸と枠糸を作る.円網において縦糸は餌の動きを一時的に止める役割をする.
縦糸の強度は太さが同じなら鋼鉄級.
更に弾力がある為,硬い物よりしなやかで壊れ辛い.縦糸には粘着性がない.
また,枠糸にも粘着性はない.これらはいわば網の骨組みである.
【集合腺・鞭状腺】
集合腺と鞭状腺は円網の横糸を作る.
円網において横糸(らせん糸)は餌を絡めて永続的に止める役割をする.
横糸には一定の間隔で粘球が並んでおり,粘着性を有する.
横糸の粘球部分は集合腺で作られる.
一方,横糸の地糸(軸糸)は鞭状腺で作られ,粘着性はないが伸縮性を有する.
つまり,横糸は集合腺と鞭状腺の合作である.
【梨状腺】
多数の縦糸を網の中心で固定したり,縦糸と枠糸を接着するのは,梨状腺でつくられる粘着性の糸であると考えられる.
総括すると円網を作るのには,瓶状腺・集合腺・鞭状腺・梨状腺の4つの糸腺が使われる.
瓶状腺と梨状腺は古いタイプの糸腺であり現存するクモの大部分が持つが,鞭状腺と集合腺(つまり横糸関連)はコガネグモ上科だけが持っている.
【葡萄状腺・管状腺】
コガネグモは多くの場合,網に餌がかかると直接噛みつかず,餌から離れて多数の糸を投げかける.これに使われる糸は捕帯であり,葡萄状腺で作られる.
葡萄状腺は卵嚢にも使用される.
また,オスでは精網(精液を蓄える小さな網)にも葡萄状腺が使われる.
管状腺はメスにのみ存在し,卵嚢の形成に使われる.